先日、ドリアン助川さんが書かれた『あん』という映画を見させていただきました。
きっかけは和菓子の源『あん』が好きだからという軽い感じだったのですが、全然
違った意味で中身のある良い映画で、是非、ご紹介したく、書かせて頂きました。
あらすじはこうです。
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桜の咲き乱れる公園に面したどら焼き屋で、辛い過去を背負う千太郎(永瀬正敏)は、
雇われ店長として、どら焼きを焼いていました。物静かで、そんなにやる気に燃えて
いる訳でもない主人公。
ある日この店を徳江(樹木希林)という手の不自由な老婆が訪れ、バイトに雇って
くれと千太郎に懇願してきます。ところが、バイト代は少しで良いから働かせて
欲しいと言ってきた彼女を、いい加減にあしらい、帰らせてしまう千太郎。
手渡された手作りのあんも、一度はゴミ箱に捨ててしまうのですが、何故か気に
なって取り上げ舐めた途端に、彼はその味の佳さに驚きます。徳江は50年小豆を
愛情をこめて煮込み続けた『あん』の達人だったのです。
店の常連である中学生ワカナに話すと、薦められて、千太郎は徳江を雇うことに
します。すると瞬く間に徳江のあんを使ったどら焼きの美味さが評判になり、
やがて大勢の客が店に詰めかけるようになります。
ところが喜びもつかの間、店のオーナーが、徳江がかつてハンセン病であったとの
噂を聞きつけ、千太郎に解雇しろと詰め寄ってきます。そして、その噂が広まった為か
客足はピタリと途絶え、それを察した徳江は店に来なくなってしまいます。
素材を愛した尊敬すべき料理人、徳江を追い込んだ自分に憤り、酒に溺れてしまう
千太郎でしたが、ワカナが彼を誘い、ハンセン病感染者を隔離する施設に向かいます。
そこにいた徳江は、淡々と自分も自由に生きたかった、との思いを語るのです。
『私は、ワカナちゃんと同じぐらいの時に、兄に連れられてここへ来たの』
『家から持参した服さえ燃やされて、私は家族も思い出も奪われて閉じ込められた…』
そんな感じの話をすると、もう。ただ死ぬのを待っているような雰囲気をかもし
出していました。
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働くときの様子、死を待つ様子…樹木希林の演技の素晴らしいこと…圧巻でした。
差別や偏見で奪われた自由、それは命を奪うのに等しいほど、残酷な仕打ちです。
思慮深く、小豆にさえ、思いをかけられる徳江の生き様を通して、差別や偏見の
罪深さを思い知らされました。
・・・と同時に、自由に生きられるのに、自ら扉を閉じてしまう事を哀れむ徳江の
『もっと自由に生きて良いんだよ』
・・・という優しいメッセージを受け取ったのでした。
映画のラストシーンは、桜に包まれる中、主人公に与えられた『自由』が映し出され
ていました。人間の醜さと、優しさと、差別と自由と…見始めは軽いきっかけでしたが、
終わってみれば、心に染みる、本当に良い映画でした。