世界!ニッポン行きたい人応援団『「金継ぎ(きんつぎ)」を愛するイタリア女性が本場で猛勉強』の回、ご覧になられましたか?
イタリアからやってきた美術品のプロの修復師というキャーラさんが今回のご招待客。
いま世界30ヵ国以上に愛好者が急増中という“金継ぎ”の大ファンということでしたが、実は私は”金継ぎ”なるもの…初耳でした。金継ぎとは、壊れた陶磁器を漆で修復し金で繕う、物を大切にするニッポンならではの技の名称。キャーラさんは、そんな破損したものは元通りに直す欧州の修復と違って、あえて傷を隠さず新たな美を創造するという究極の修復技法に魅せられたのだとか。
いつもの招待客の様に、独学ながら、海外では手に入りにくい漆を取り寄せ、プラスチックボックスを室(むろ)にした金継ぎを実践。「ニッポンで金継ぎの先生から基礎を学んだり、漆職人に会って室について教わったりしたい!」ということでのご招待となりました。
キャーラさんが、まず向かったのは京都にある「漆芸舎 平安堂」。漆を使った伝統的な漆芸修復に40年以上携わる漆芸修復師・清川廣樹さんは、何ヶ月待ちというお客様もいる凄い方です。
金継ぎには、割れ、ひび、欠けなどいくつかの修復タイプがあり、素材や質感に合わせて金の色調や風合いを調整して施していきます。「元へ戻すだけでなく、新しい命を吹き込む。壊れたところを隠さないで模様に変える」という清川さんの修復を超えた美意識は、自然に朽ちた物も美しいと感じるニッポンの“侘び寂び”の精神に通じるものでした。
今回の見どころは、北大路魯山人の器・割山椒(わりざんしょ)の修復工程を、分かりやすいように段階別に用意してくれて見せていただけるところ。清川さん、神対応です。
割れた破片を糊漆(米粉を使った糊と生漆を混ぜたもの)で接着し、硬化させるため一週間ほど室へ入れますが、最初の10時間に最適な室温と湿度を保つことで、漆の強度や光沢が決まる大切な工程。清川さんは、電球と濡れタオルで温湿を調整し、余計な湿度は室の杉板が吸収してくれるといいます。キャーラさんが使っているプラスチック室は湿度が高くなりすぎるため、漆の接着力が弱まる要因になるとも指摘してくれます。
この後、錆漆(砥の粉を水で溶いたものと生漆を混ぜたもの)や、備前焼のざらついた表面に合わせるための砂子漆(漆黒の漆と粒が均一な砂を混ぜたもの)、金粉が映える赤い弁柄漆など、それぞれヘラや筆で継ぎ目に塗っては室で乾燥する工程を繰り返し、弁柄漆の表面だけが硬化したタイミングに金粉を沈めれば、最高の黄金色を出せると実演してくれます。
30分後、新品だと金を吸い込んでしまうため使い込んだ絹の真綿で金粉をつけてはこする工程を2~3度繰り返して光沢を出し、器より主張しないよう4~5工程かけて半透明の漆を重ね、器に合う深みのある金色へ。ちなみに漆は時間とともに透明感が増すので、最も美しい状態になるのは、なんと50年後なんだとか…。未来の変化を想像して手掛けるのが漆の楽しみ方でもあると語られる清川さん…凄い人でした。
清川さんは、キャーラさんの金継ぎ作品を見て、継ぎ目の溝が見えているから、下地にもうひと手間かけるべきだとアドバイスされたり、修復には器を傷つけないよう木製のヘラを使うことや、しっかりした下地を作ったりする技法を丁寧に説明しておられました。更に、簡易的な室の作り方まで教えて下さいました。
「沢山の疑問点まで、すべて教えていただけた」と大量の取材メモを見せて感謝するキャーラさん。清川さんからは、「僕が40年習ったうちの5年分くらいは入ってる。たくさん失敗を繰り返してください、そうすることで上手になります」と励まされておられました。技術は見て学べと言った昔のタイプの職人さんではなく、手にしてきた経験や知識を惜し気もなく伝えようとする清川さん…本当にこれまでの中でもトップクラスの神対応でした。
キャーラさんが、かけがえのない体験のお礼に、地元の焼き菓子を贈り感謝を伝えると、清川さんからは愛用の道具セットと明治時代の醤油刺しの金継ぎが渡されました。なんと素敵なプレゼントでしょうか…。
番組では、この他、日本有数の漆の産地・茨城県大子町に赴いて、漆掻きを見せていただきました。長くなってしまうので詳しくは触れられませんが、「1シーズンで1本の木から採れる漆の量は牛乳瓶1本分」という採取量、その貴重さには驚かされました。帰国の前には、歓迎会メンバーの木漆工芸作家・辻さんの工房で、特別に漆塗り体験もさせて頂いたキャーラさん。
「金継ぎは金の部分が一番重要だと思っていたのですが、色々な人の汗や苦労が入った漆の下地があってこそだと学びました」と、ランランと輝くまなざしで喜びを表現しておられました。毎回思う事ですが、招待される方も、受け入れて対応される方々も、本当に素敵で素晴らしい方ばかりで、番組を見終わると感動で心が癒されます。
漆の詫び錆び…魯山人の器より前にでない金継ぎ仕上げ…清川さん凄かった・・・
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