『胸一杯に』
私は 少年時から十年間
病気でねた
暗い思いの或る日
母をなじった
・・・・・・なぜ生んだ
母は泣いた
おまえも いつか
それを口にする時があるかも知れぬ
私は頭をたれて受けよう
そうなのだ
しかし
私が いちばん大切にしている言葉をやろう
・・・・・・人間必ずいつか死ぬ
そして二度とこうして生きることはない
だったら
生きてある今を
しっかりと両の掌(て)のひらの中に
包み込みたくならないか
一枚の落ち葉の重み
耳たぶを過ぎる風のささやき
生垣の破れをくぐる黒いむく犬
やさしさ なつかしさを感じないか
生きてある今を
胸一杯に深呼吸したいと思わないか
横山隆「はこべらのうた・・・わが子への書きおき」より